今から遡ること40年以上前。創業者の一人・松田雄吉が生薬をベースにした入浴剤を製品化して以来、生薬の入浴剤づくりを大切に続けてきた松田医薬品。OEM事業を中心に、素材へこだわった自社製品も生み出してきました。
そんな松田医薬品がこのたび、自社製品のリブランディングを実施。17種類を超える製品を「あったまる」「しっとり」「さっぱり」「うっとり」の4カテゴリに分類し、「おふろの芯体験」というブランドネームのもとに統一。デザインも刷新しました。
入浴剤事業のスタートから40年以上が経った今、リブランディングを行った理由とは?
プロジェクトを立ち上げた経緯や想い、取り組みを通じて得られた気づきについて、取締役営業副本部長の松田憲明と、本プロジェクトに関わった細川元広に話を聞きました。
松田憲明
松田医薬品株式会社 取締役
営業副本部長
立教大学を卒業後、2009年にアルフレッサ(株)に入社。営業職を3年、経営企画を2年経験。2019年に家業である松田医薬品株式会社に入社。2022年5月より現職。
細川元広
2004年入社。営業部所属。
直近では、伊吹山の自然を守り、蘇らせるために立ち上げられた資生堂との合同プロジェクト・伊吹山「蘇湯(そゆ)」プロジェクトにも参画した。
「松田医薬品の入浴剤」を認識してもらうために
まずは今回のリブランディングを行った経緯について教えてください。
細川:リブランディングの目的の一つは、お客さまが一目見て「松田医薬品の製品だ」とわかるよう、自社製品を整理することでした。
「松田医薬品さんの商品っていいよね」とはよく言ってもらえるものの、どの商品がどのようにいいのか、わかりにくい状態だったんですよね。OEM事業を行っていることで、クライアントの商品と自社製品が判別しづらい課題もありました。
松田:松田医薬品が薬草を使った入浴剤の製造を始めたのは40年以上も前。これまでは会社全体としてデザインを統一することもしてきませんでした。この機会に、誰に向けて、何を、どのように届けるのかを明確にし、より愛される会社になること。それが今回のリブランディングの最終目標でした。
細川:自社製品が少ないことへの社内の課題意識も、リブランディングのきっかけの一つだった気がします。昔は今以上に自社製品が少なくて、私が入社した2000年前後にあったのは「マツダ浴精」をはじめ、諸先輩方が残してくれた宝物のような商品がほんの数種類だけ。入浴剤事業においてはOEMが大半を占めていましたから。
そんな中、自社のオリジナル製品の製造を始めたきっかけは何だったのでしょうか。
細川:「OEMではできない商品をつくりたい」という想いの高まりでしょうか。OEM事業のミッションは、クライアントのご要望やご予算の範囲で、できる限りいいものをつくることです。ただ、どうしても価格に制限があるので、コストを度外視した商品づくりは難しくなってしまいます。
お客さまのことを考えたら、“本当に”発汗するもの、潤うもの、香りのいいものも提供するべきなんじゃないか。それを担うのは、ほかでもない私たちなのではないかと考えて、自社製品の製造に踏み切った経緯がありました。
細川:また、OEMでは難しい商品づくりを目指すことで、結果的に、弊社のOEMを利用してくださるお客さまとの市場のバッティングも避けられるんですよね。
こうした背景を受けて生まれたのが、プライベートブランド第一号の「LA CEZEN」です。その後も自社製品は少しずつ増えていき、現在では17種類以上の自社製品が販売されています。
創業当初からのDNAをブランドスローガンに
今回のプロジェクトを進める際、どんなことから着手していったのでしょうか。
松田:伊吹山「蘇湯」プロジェクトにも参加いただいたREDD.incの望月重太朗さんのディレクションのもと、松田医薬品の軸となる部分を言語化していきました。
具体的に行ったのは、「松田医薬品らしさ」についての社内でのディスカッションや、OEMのクライアントさんへのインタビューなどです。これらの調査を通じて「真面目」「本物志向」「安全性」といった堅実なイメージがあることがわかってきました。
これをもとにブランドスローガンづくりを進め、最終的に「自然のあらゆる恵みを紡ぎ、人と社会を、あたためる。」というスローガンにたどり着きました。
「自然のあらゆる恵みを紡ぎ」には、生薬にこだわってきた歴史が表れていますね。また「人と社会を、あたためる」という言葉も印象的です。これはどのような考えから生まれたのでしょうか。
松田:弊社の自然由来の素材を使った入浴剤には、昔から「体をあたためて、健康になってほしい」という想いが込められていました。入浴剤を使った方が1日の始まりを元気に迎えて、100%のパフォーマンスを発揮することができたら、間接的に“社会のため”になるんじゃないか。つまり、人をあたためることは社会全体の健康にも繋がるのではと考えたんです。
社会に対して会社としてどう向き合っていくか。こうした姿勢をブランドスローガンとして掲げられているのは素晴らしいですね。
松田:実はこうした利他的な姿勢は、創業当初から受け継がれてきたものの一つなんです。
創業者の一人である祖父が、事業があまりうまくいかなかった時期に、ある方から言われた言葉があります。「お前は病気の人が増えたら薬が売れて、会社が儲かると思ってるやろ。そうした考え方をしている限りは商売は立ち行かない」と。
それ以来、売り上げや利益ではなく、いかに人の健康を保つかを常に考え、そのために薬があるのだと考えることを大切にしてきたと聞いています。社会に対して何ができるかといった精神は、創業してまもない頃から今に続く、松田医薬品のDNAなのかもしれません。
リブランディングで気づいた、自社製品の魅力
ブランドスローガンをつくった後は、どのような作業をされたのでしょうか?
松田:約20種類の自社製品を分類する「カテゴリ分け」です。これがかなり大変で、4~5カ月はかかりました。というのも、一つひとつの商品にさまざまな効能があるため、ベストな分類になかなか辿り着けなくて。
最初は「あったまる」効能での整理から着手したのですが、「保湿」や「心地良さ」といった別のキーワードもどんどん出てきて。最終的には10パターン以上を検討して、現在のかたちに落ち着きました。
これらの全ラインナップを包むかたちで「おふろの芯体験」という言葉を掲げられたんですよね。「芯体験」という言葉にも、独自の想いを感じます。
松田:「芯体験」にはいくつもの意味がかかっています。メーカーの立場から「これが真の入浴剤だ」というものを届けたいという「真体験」。これまでにはなかった商品を提供することによる「新体験」。これらを総合して体の芯まで温まる「芯体験」の3つです。
細川:改めて見ると、「芯」は「草の心」と書くんですよね。以前、社長から「40年以上もうちの会社が扱ってきた“薬草の心”にも敬意を払いなさい」と聞いたことがあって。そういう植物の要素も入っていて、素晴らしいコピーだなと感じています。
キャッチコピーの「さあ、おふろを淹れよう。」にはどのような意味が込められているんでしょう。
松田:私が以前、東京で一人暮らしをしていた頃、おふろはシャワーで済ませることがほとんどでした。浴槽にお湯を溜めてゆっくり浸かるのは週に1〜2回、という人も、忙しい現代には多いと思うんですね。
おふろはわざわざ"入れる"もの。だとしたら、ひと手間かけて、お茶のように“淹れる”ことで、ラグジュアリーな時間をじっくりと味わっていただきたい。そんな私たちの願いを体現するコピーになっていると思います。
会社の内にも外にも、「らしさ」を伝えやすくなった
今回のプロジェクトを経て、よかったなと感じることはありますか?
松田:自社製品のカテゴリ分けで、お客さまに“松田医薬品らしさ”が伝わりやすくなったことですね。これまでは50~60代のお客さまが多かったのですが、働き盛りの20代後半以降のお客さまにも届けられるよう、いろいろなお店の棚に置いていただいたり、松田医薬品について語っていただいたりする場が増えることを期待しています。
また、カテゴリ分けをする際に話し合う中で、各商品の魅力を改めて言語化できたことも大きな収穫でした。こうして商品の違いを認識することによって、入浴剤以外の事業部のメンバーにも、商品の魅力を適切に説明できるようになったのも、よかったことの一つです。
最後に、お客さまにぜひ注目してほしいポイントについて教えてください。
細川:さっぱりシリーズの「爽快福」「青春の湯」はぜひ体験してほしいですね。会社の先輩方が気合いを入れて生み出した製品で、入浴剤の製造に長く携わってきた人間としては、この誕生をめぐるストーリーだけでご飯3杯いけるくらいの逸品です(笑)。ものづくりにこだわり続けている松田医薬品らしい商品でもあると思うので、皆さんの感想を聞かせてほしいですね。
松田:このウェブマガジン「おふろタイムズ」も、リブランディングの一環で始まった新しい試みです。どの記事も肝入りですから、今後の更新もぜひチェックしていただきたいです。