おふろタイムズ

おふろタイムズとは

『おふろタイムズ』は、日々のおふろ時間を豊かにするウェブマガジンです。入浴の質を高め、芯まであたたまるための情報から、日本各地にある温泉や銭湯をめぐるストーリー、松田医薬品の入浴剤へのこだわりまで、さまざまな記事をお届けします。

銭湯・サウナブームもあり、入浴施設に日常的に足を運んでいる方も多いのではないでしょうか。

でも、そんな銭湯の設備のなかのひとつ「電気風呂」にあなたは入ったことがありますか? その名の通り、ビリビリと微弱な電流が流れる電気風呂。いまいち入り方や魅力がわからない……。そんな方こそ、ぜひ今回の記事を読んでみてください。

お話を伺ったのは、電気風呂鑑定士を自負するけんちんさん。今までに全国1000件以上の電気風呂を巡り、電気風呂ハンドブック 『Electric Bath Handbook 電気風呂御案内200』(八画出版部)や『電浴Go!!』(おしどり浴場組合)を発行するなど、広く魅力を発信し続けています。

電気風呂の魅力を知れば、銭湯がより楽しめるようになるかもしれません。


(プロフィール)
けんちん

電気風呂鑑定士/ゲタバキ団地愛好家。大阪生まれ。2017年頃より、電気風呂に開眼し、 全国の電気風呂の鑑定・記録を行う。これまで電浴した電気風呂は1000箇所以上。書籍 やウェブへのコラム寄稿やイベントを通して、発信を行っている。

電気風呂愛好家でもあり、電気風呂鑑定士として「マツコの知らない世界」に出演。 著書に『Electric Bath Handbook 電気風呂御案内200』(八画出版部)『ゲタバキ団地 観覧会』(八画出版部)。寄稿書籍に『銭湯文化的大解剖!』(おしどり浴場組合編著 /神戸新聞総合出版センター)。2020年にお風呂屋さん巡り仲間と「おしどり浴場組 合」を結成。ZINE「銭湯生活」の制作や作品展示・グッズ販売を行う。

X:@kenchin


腰痛をきっかけに、電気風呂にハマった

けんちんさんは、これまでに全国1000か所以上の電気風呂を回ってきたそうですね。電気風呂にハマったきっかけはあったんでしょうか?

元々、一度ハマるとより深く知りたくなる性格ではあって。これまでも、団地やドムドムハンバーガーを巡る活動(※)をしていました。

電気風呂は、銭湯にあるのはもちろん知っていたんですけど、子供の頃はビリビリするし苦手でしたね。転機となったのが、25歳の時に腰を痛めたこと。整骨院で電気治療をしても改善が遅く、弱っていたんですが、そういえば銭湯には電気風呂というものがあったなと思い出して。 毎日継続して入ってみたところ、2週間くらいでコルセットが外すことができるまで改善しました。

※けんちんさんは、「団地」をカルチャーと捉え魅力を発信する活動や、「ドムドムハンバーガー」を応援する私設ファンクラブ「ドムドムFC連合協会」の活動などに取り組んできた。

すごい!

個人差はありますので、あくまで僕の場合ですけどね。体質なんかが合ってたのかもしれません。そこで電気風呂への興味が湧いたと思います。ただ、すぐに電気風呂巡りを始めたわけでなく、10年くらいは普通に銭湯の一設備として楽しんでいました。 50軒電気風呂がある銭湯を回ってみて、これは銭湯によって電気の感じ方が全然違うぞと気づき、どんどん調べていったんです。

では、25歳の頃から一気にハマって。

いや、明確にハマったのは2018年ですね。関東に単身赴任をしていた1年の間に、東京、神奈川、千葉、埼玉の公衆浴場に設置されている大半の電気風呂に入りました。関東の銭湯では3軒に1軒くらいしか電気風呂がなかったので、回りやすかったんですよね。 その後、2年ほどかけて大阪、京都、奈良、兵庫の電気風呂を巡りました。

電気風呂に、関東と関西の地域性や特色ってあるんですか?

電気風呂は京都や大阪で広まった文化なので、設置数は圧倒的に関西のほうが多いですね。銭湯の8割に設置されているので、みんなにとって当たり前にある設備という感じです。あとは、関西のほうがビリビリ感を強く感じることが多い。これは、電気風呂の歴史が長い分、 利用者も高齢になり電流を感じにくくなっていて、「もっと強くして」という要望が多いからなんじゃないかと思っています。

なんというか、電流を強くしても問題はないんでしょうか……?

電気風呂の電流って、どんなに強くしても単三電池1本分くらいなんですね。もちろん安全装置もついているので、安全な設備だと考えています。 逆に言うと、電池1本でもそれくらいの電流は出るんだということなんですけど。

タイプによって、電流のリズムも違うのだとか。

メーカーによってもぜんぜん違いますね。揉みほぐされるようなタイプと、肩たたきのようにトントンと叩かれるようなタイプがあります。

さらに、電気を制御する電源ボックスのタイプが「アナログ」か「デジタル」かによって、電流がまるで違ってきます。アナログの場合、同じメーカーでも、一台一台に揺らぎや個性がある。これだけの数の電気風呂に入っていると、 湯船で電気を浴びた瞬間に「あ、これはアナログだな」とわかりますね。


電気風呂の魅力は、短時間でリフレッシュできること

電気風呂に入る際のポイントや、注意点があれば教えてください。

電流が発生する電極板に、いきなり近づかないようにするのがポイントですね。 特に初めての方は、板の手前からゆっくり近づくといいと思います。 電気風呂は、「電気を身体に入れる」ことが目的なので、少しでも電気を感じたところで止まって大丈夫。 あと、怖いからといって手を先に入れてしまう人がいるんですが、電気って骨に流れるので、脂肪の少ない指 は強いビリビリを感じてしまうんですね。太ももとか、お尻から入っていくのがいいと思います。

一回に何分くらい入るものなんでしょうか?

メーカーが推奨しているのは3分以内ですが、僕は30秒から1分でも十分楽しめるのではないかと思っています。長く入ると逆に体に悪いと思います。

でも、この「短時間入る」というのは良さでもあると思っていて。電気風呂と水風呂に交互に入る「電冷浴」をおすすめしているんですけど、たとえばサウナに入る時間がない時も、電冷浴なら短い 時間で頭をスッキリさせることができる。この感覚のことを、僕は「ととのう」ではなくて、「覚醒する」と呼んでいます。

覚醒! それは試してみたいです。私はあまり電気風呂に入ったことがないのですが、そんな人にもおすすめの銭湯があれば教えてください。

そうですね。東京だと、代々木上原の大黒湯。電極と電極の間が広いので、初めての方でも入りやすい電気風呂です。 しかも、ミストサウナと電気風呂に同時に入れるんです。ぜひ一度試してみてほしいですね。地下水を汲み上げた水風呂は、肌触りがサラッとしていて、とても気持ちいいです。

松田医薬品さんのある四国だと、香川県の観音寺にある共楽湯が大好きですね。四国には電気風呂が設置されている銭湯が少ないんですが、 ここは早い段階で導入されていて、電気風呂への愛と扱いに長けている感じがします。

強めの電流なのですが、きちんと入り方が提示されていて、いろいろな人に入ってほしいという思いが伝わってきます。電気風呂は薬湯の中に設置されています。


電気風呂の魅力を知れば、銭湯がもっと楽しくなる

今現在も、新しい電気風呂の機器は生まれているんですか?

はい。どんどん進化した電気風呂が開発されていますね。たとえば、「マッサージ電気風呂」というものがここ10年くらいで出てきています。これは、一定のビリビリするだけの電流ではなく、「揉む」「たたく」など の刺激がプログラムされている電気風呂。より気持ちいい電流のパターンを求めて、各メーカーさんが切磋琢磨していますね。

それと、先月3月にリニューアルオープンした大阪西成の入船温泉では、日本初の、お客さん自ら電流の強さと、主要電気風呂メーカー3社を切り替えられるシステムを導入しました。 色々な電気風呂を楽しみたいと大将にお願いしたら、実現してくださったので、嬉しかったです。

おお、それはすごい……! 電気風呂を利用する人たちも増えているんでしょうか?

先日、テレビ番組『マツコの知らない世界』に出演させていただいて、かなり反響があったんです。 番組を見て、電気風呂に入られる方が増えているみたいで。より多くの人に知ってもらえたのは嬉しいですね。

では、これからも電気風呂文化は発展し続けていくんですね。

それが、新しい電気風呂が開発される一方で、アナログ電気風呂は製造が中止されており、部品をつくるところもないので、 壊れたら終わりなんです。だから、アナログ電気風呂はどんどん数が少なくなっていくと思います。その部品を自分たちでつくれないか、今、仲間と話しているんですけど……。

すごい情熱ですね。今までたくさんの電気風呂を巡ってきたけんちんさんですが、まだまだ探求は続きますか?

まだまだ知りたい気持ちが強いです。行っていない電気風呂が全国にあと300箇所ほどあるんですよ。 遠いところでは、沖永良部島、徳之島、北海道など……。時間を見つけて訪れたいと思っています。

それと、島根県にだけ電気風呂が一軒もないんですよね。だから、電気風呂のメーカーさんに話して、入れてもらえるかお願いしに行ければと考えています(笑)。

「電気風呂御案内200 Electric Bath Handbook」
けんちんさんが制作した、ハンドブック「電気風呂御案内200 Electric Bath Handbook」

けんちんさんは、電気風呂を自分だけの楽しみにせず、日々発信を続けていますよね。その理由はなんでしょう?

電気風呂に入ったことで腰が楽になった経験が大きかったですね。そういったよさを、たくさんの人に知ってもらいたいと思っています。

あと、銭湯が好きな人はたくさんいるんですけど、電気風呂に苦手意識を持っている人はまだまだ多いんですよ。

でも、電気風呂に入るポイントや魅力がわかれば、銭湯の楽しみがひとつ増えるじゃないですか。

そうですね。お話を聞いて、私も電気風呂に挑戦してみようと思いました。

それに、銭湯さんも、メーカーさんも、長く続けていくのは簡単ではないと思うんです。だから、自分が発信して盛り上げたり、銭湯に訪れる人を増やしたいという思いはあります。 僕の根底に「人に喜んでもらいたい」という気持ちが流れているんでしょうね。

ありがとうございます。最後に、けんちんさんにとって、おふろってどんな存在ですか?

日常の延長線上にある、リフレッシュできる大事な場所ですね。銭湯のおふろに入ることで、僕は少なからず救われてきたなと思います。これからも、より多くの人に、 電気風呂を含めたおふろ文化を知ってもらえるように伝えていきたいと思っています。

痛めた腰が改善したことをきっかけに、電気風呂の魅力に気づいたけんちんさん。 銭湯や家のおふろを上手く利用して、日々の身体の調子を整えてみませんか?

取材・執筆:荒田もも(Huuuu)
編集:友光だんご(Huuuu)

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