
「こんにちは! 今日はいい天気ですね」
ステファニーさんの朗らかな挨拶で、番台さんもふっと顔をほころばせます。
「初めて行く銭湯でも、番台さんやお客さんに挨拶するようにしていますね。これから同じ空間と時間をシェアさせてくださいね、という気持ちで。
日本の人たちはみんな忙しそうで、通勤ラッシュの時なんかは自分を大切にできていない感じがするじゃないですか。だから、せめて銭湯では、個人個人を認め合って、安心して、リラックスしたいなって」
日本の銭湯文化に魅せられて、フランスから来日。現在は日本銭湯文化協会公認の「銭湯大使」としても活動しているステファニー・コロインさん。
今回は、東京・中野にある「天神湯」で、日本に来てから幾度も救われてきたという銭湯の魅力について聞きました。
(プロフィール)
ステファニー・コロイン
フランス・プロバンス出身。リヨン大学在学中の2008年、立教大学に留学。2012年、日本の企業に就職し再来日。2014年、銭湯を紹介するウェブサイトを開設。2015年、日本銭湯文化協会公認の銭湯大使に任命。 著書に『銭湯は、小さな美術館』『フランス女子の東京銭湯めぐり』 『銭湯~日本の風呂文化芸術』(和題)。Instagramで毎日銭湯の情報を更新している。
Instagram:https://www.instagram.com/_stephaniemelanie_/
Instagram(インテリアアカウント):https://www.instagram.com/my_tokyo_interior/
初めての銭湯で、みんなが歓迎してくれた

ステファニーさんは、来日されてから全国の銭湯に足を運ばれているんですよね。
そうですね。全国の1000軒以上の銭湯を巡りました。北海道や四国には行けていない銭湯がまだまだたくさんあるんですけどね。
1000軒はすごい! 2015年には「銭湯大使」にも任命されていますよね。銭湯に関して、どういった活動をされているんですか?
国内外のメディアや、自身のSNSで銭湯文化の魅力を発信しています。他にも、銭湯に関する本を出版したり、銭湯の建築の素晴らしさを知ってもらうために、 写真を5万枚以上撮ったり。銭湯の写真の展示を台湾で開いたこともあります。

それほど銭湯を好きになったきっかけは?
2008年に交換留学で来日した時に、西池袋の「妙法湯」に行ったんです。初めての銭湯でした。そこで一気に銭湯が大好きになりましたね。
「銭湯が好きだ」と感じた一番のポイントは、なんだったんですか?
大きな湯船に浸かってリラックスできるのももちろん素晴らしかったんですが、番台さんやお客さんとの交流がとても楽しかったんですよね。当時、まだ銭湯に来ている外国人は少なかったのでちょっと 緊張しながら入ったんですけど、みんな歓迎してくれました。妙法湯のオーナーもすごく優しくて、銭湯のことや、日本文化についていろいろ教えてくれました。
それで、日本の銭湯は深い歴史がある大切な文化なんだ、と知ったんです。
フランスと日本のおふろの違い

「銭湯大使」として、海外の方にはどうやって銭湯を紹介しているのでしょうか?
まず、ビジュアルで興味を持ってもらうことは大事ですから、銭湯さんに協力してもらって写真を撮って発信をしていますね。 銭湯の魅力のひとつに、建物の外観や、タイル画などの美しさがあると思っています。私の最初の著書も 『銭湯は、小さな美術館』という、銭湯の なかにあるアートを紹介するという本でした。
確かに、この富士山の絵も立派ですよね。
天神湯のペンキ画は、丸山清人さんという銭湯絵師の方が描かれています。 これ、一日ですべて描き上げているんですよ。すごいですよね。銭湯絵師と呼ばれる職人さんは、今では日本にたった3人になっています。
銭湯に行けば、アーティストの作品を見ることができて、日本の方々とも交流ができる。観光名所に行くのと同じくらい、銭湯では日本を感じることができると思うんです。

確かに、身近に日本らしさを感じることができる場所かもしれないですね。 そのいっぽうで、銭湯のマナーが、海外からのお客さんを苦しめないかなとも思っていて。
私は観光ガイドの仕事もやっているんですけど、よく銭湯にも一緒に行くんですよ。銭湯に慣れていない海外の人も入りやすい湯温の店や、マナーを教えてあげると、「気になってはいたけど、これまで入れなかった。これからは一人で行けるよ」 と喜んでくれてとてもうれしいんです。言語の壁はあるけれど、教えてあげれば大丈夫。海外の方が銭湯を体験する入口を、私がつくれたらいいなと思っていますね。

フランスには、銭湯のような入浴施設はあるんですか?
銭湯くらい気軽に行ける入浴施設はあまりないですね。温泉はあるんですが数が限られていますし、スパは値段が高いです。
では、みんな家のおふろに入る?
フランスの家庭では浴槽とシャワーが離れた場所にあることが多くて、ちょっと不便なんですよね。日本より水道代も高いですし、追い焚き機能もないので、毎日おふろに入ることはできません。
日本では、都内であればどこであっても、だいたい徒歩15分くらいの範囲に銭湯があるでしょう。誰もが日常的に「おふろ」にアクセスすることができる。日本ならではの文化で、素晴らしいなと思います。

あったかいお湯に浸かることもそうですが、銭湯でのコミュニケーションにも救われていますね。各所の銭湯を巡って、たくさんの素敵な人たちとの関係性ができました。 地方に出向くときは、新しいところに行きたい気持ちもあるんですが、好きな人たちに会いに同じ銭湯に行くことも多いですね。
私はフランス人なので、日本には家族はいないのですが、銭湯のおかげで全国に家族ができたんです。
銭湯は、悩みや属性がなくなる場所

さっき、銭湯の方とも楽しそうにお話されていましたね。銭湯でのコミュニケーションは、ステファニーさんにとってどんな意味を持っていますか?
人と世間話ができる場所って、とても大事だと思うんですよ。銭湯や日本の文化に魅せられて日本に来たけれど、その文化の違いにすごく苦しめられたこともあるし、お金がなくて生活が苦しい時期もありました。それに、 私はいろいろと悩みすぎてしまう性格なんです。シリアスになりすぎてしまう時はいつも銭湯に行って、番台さんやお客さんとお喋りしていましたね。
銭湯に行けば、世間話ができる人がいる。
そうそう。それに、おふろに浸かっている間は、仕事のことや、日々の悩みが一瞬消えてなくなるんです。リラックスして湯船から上がると、さっきまで私を押し潰そうとしていた悩みが、小さくなっているのに気づく。そんなにひどい状況じゃないぞ、大丈夫なんだって思えるんです。

日本とフランスの文化の違いで悩んだというのは、どういうところで?
例えば、日本には「建前」という文化がありますよね。相手の本当の気持ちがわからないと、心が落ち着かなくて正直疲れることも多いです。
でも、銭湯での裸の付き合いのなかでは、あんまり建前ってないんですよね。ありのままの自分でリラックスできる。あと、銭湯では肩書も外れる気がしていて。 銭湯にいる時は「外国人」という属性が外れて、コミュニティの一員になれる。それがすごくうれしいんです。
肩書や、属性が外れる場所って、意外と多くないですもんね。
そうですね。普段ってあんまり知らない人に話しかけないじゃないですか。でも、銭湯なら自然とできる。
フランスにはカフェ文化があって、たまたま居合わせた隣のテーブルの人や近所の人と話したりすることが結構あるんです。 日本のおふろは、それと近い感覚だと思う。銭湯は、地域の人と交流できる場として機能していると思います。
私がありのままでいられる銭湯を、これからも発信していきたい

ステファニーさんが今後、やっていきたい活動はありますか?
全国の銭湯を紹介し続けたいですね。本当に一軒一軒個性があって、それぞれ違うし、歴史やストーリーがあるんです。 銭湯を経営している家族のストーリーや、場所の歴史も大事にしたい。銭湯の魅力を発信し続ける活動はなるべく続けたいですね。
海外に向けても、銭湯は日本の大事な文化だと伝え続けたいですね。今はインバウンド需要があって、日本への観光客が増えていますが、観光ガイドで紹介されているのはいつも同じ場所なんです。銭湯は観光スポットにはならないかもしれないけれど、 歴史も、今の日本の人たちの生活もわかる、なにより日本の人たちと交流できる場所だから。ぜひ銭湯を知って欲しいです。

それと、私は銭湯の他にも、日本の純喫茶や島が大好きなんですよね。 今は昭和のレトロな文化が再燃していると思うので、おふろと喫茶について書いた本を出してみたいなと思っています。
ステファニーさんは他にも、インテリアデザイナーや、イラストレーターのお仕事もされているんですよね。
そうなんです。インテリアデザイナーとして、お風呂のロビーやエントランスの、インテリアのサポートみたいなことができたらうれしいですけどね。

最後に、改めてステファニーさんにとって銭湯とは?
私にとって、かけがえのない存在ですね。元気な時も辛い時も、ずっとそこにあって、私を見守ってくれる人たちもいる。 手が届くところにある大切な存在です。これからもずっと銭湯に行き続けます。

家でおふろに入る時は、入浴剤をよく使うというステファニーさん。
松田医薬品の入浴剤を使って、感想をお寄せくださいました。

青春の湯
暑い日にこの入浴剤を試してみたのですが、本当に最高でした。 お湯の温度は40度に設定しましたが、成分のおかげでとても爽やかで心地よいバスタイムになりました。
お風呂に入る前から、自然な香りがふんわりと漂い、とても癒される印象。 お湯に浸かるとすぐにお肌にひんやりとした感覚が広がり、お風呂上がりの肌はしっとりすべすべになります。
普段から成分にはかなり気を遣っているのですが、この入浴剤には自然由来の成分がたっぷり含まれていて、とても嬉しかったです。
ホホバ、オレンジ、ラベンダー、ローズマリーの油や、メントールなどが使用されていて、心も体も癒され、おうちで贅沢スパ気分になれました♨️✨